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「子どもたちには考えることを楽しんで欲しいと願っています。それが今後の人生で非常に大事になるからです」 慶應義塾大学 環境情報学部教授 兼 政策・メディア研究科委員 大岩 元(おおいわ はじめ)さん ![]() |
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「日本語はプログラムを書くために最も優れた言語」長年、情報教育学と認知工学などを専門に研究してきましたが、我が国の情報教育が大変に遅れているという危機感を常々感じていました。国レベルでも試行錯誤している中で、民間企業である日本HPの情報教育に関する社会貢献活動に感銘し、HPSSKに賛同したいと考えたのがアドバイザーになったきっかけでした。 アラン・ケイ博士の考えのすばらしいところは、子どもたちのみならず、全ての人々がコンピュータを使うための理想環境としてSqueakを生み出した点です。それを使って教育するということは、自ら考えるという教育の本質を実現するために非常に優れた方法であり、そこに大変興味を持ちました。 また、コンピュータを主体的に使うためには、母国語の教育が重要だというのが私の持論です。特に、日本語はコンピュータと相性が良く、プログラムを書くために最も優れた言語だと確信しているのです。プログラムは日本語で書くべきだという研究にこだわり続けているのはそのためです。 その立場でSqueakの環境を考えたとき、単語だけ日本語に置き換えたのでは、英語の語順で日本語の単語が並んでしまうことになります。子どもたちがプログラムの意味を正確に理解するには、英語をマスターするに匹敵するような努力が必要となってしまいます。 そこで、私の研究室では、日本人の思考の流れを妨げないよう日本語の語順でプログラミングできる言語『言霊』を開発し、それをSqueakと組み合わせた『ことだまon Squeak』を情報教育の現場で活用しています。これによって子どもたちは、プログラムの意味を辿る作業から開放され、プログラムを作ることに集中できるようになりました。 「日本はコンピュータ・イリテラシーへの道を突き進んでいる」しかし、日本の情報教育の比重は、既製のソフトウェアの使い方を覚える教育に傾けられているのが現状です。それは必要なことですが、学校教育では自分のしたいことを日本語できちんと表現できるように指導することが優先されるべきと考えます。それができれば、コンピュータをもっと理解できるようになるはずです。 さらに重要なことは、情報教育を何歳で始めるかといった問題です。仮に、中学校でSqueakの教育が始まれば、その全ての人がプログラムを書けるようになる可能性があります。しかし、それを大学生で始めると、ほんの2〜3割の人たちに絞られてしまいます。他の先進国では、文章を書くようにプログラムを書けるようにするための教育が早期に始まっている中、日本だけはそれを専門家のする仕事として放置しているのです。まさに、コンピュータ・イリテラシー(非識字)への道を突き進んでいるといえるでしょう。 それから私は、日本の基礎教育が、考える教育を放棄して、暗記する教育へと流れつつある現状にも懸念を感じています。考えることが大切な時期の小・中学生を、安直に答えを導き出す教育へと向かわせることは、成果主義に代表する企業の評価基準の反映であり、大変深刻なことです。それゆえに、HPSSKが取り組むようなSqueakを使った教育が唯一の救いと思えるほど、危機感を感じているのです。 「日本の情報教育進展には優れた教師や指導者の存在が不可欠」HPSSKの取組みがどれだけ世の中に広がり、根付いていくかに日本の将来はかかっているといっても過言ではないでしょう。これからSqueakに触れる子どもたち、そしてHPSSKに挑戦してみようと考えている子どもたちに対しては、どうか考えることを楽しんで欲しいと願っています。記憶することではなく、考えることが今後の人生で非常に大事になるからです。 今後も私は、Squeakを日本人により使いやすくするための工夫を重ね、小学生から大学生、そして社会人にまでも広く普及させることで、日本のプログラミング教育に貢献したいと考えています。しかし、そのためには優れた教師や指導する人たちの存在が不可欠です。日本の情報教育進展のために、HPSSKの理念に賛同していただける方々がさらに増えることを期待しています。 |
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プロフィール / 大岩 元さん
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