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6月11日 「京都・立命館小学校 スクイーク授業参観およびアラン・ケイ博士記者懇談会リポート」

2006年6月11日、京都・立命館小学校において、スクイーク授業参観およびパソコンの生みの親であり、HPスーパーサイエンスキッズ名誉委員長のアラン・ケイ博士による講演会が行われました。コンピュータプログラミング言語「Squeak (スクイーク)」は、小さな子どもたちでも遊びながら理解することができ、科学や数学などの難しいとされがちな分野に親しむことのできる魔法のソフトウェア。今回、会場となった立命館小学校は独自の授業カリキュラムにスクイークを導入しており、児童達は授業で作ったそれぞれのスクイーク作品をクラスメイトや保護者に発表しました。

魔法のソフトウェア「スクイーク」を子ども達へ

HPスーパーサイエンスキッズの協賛企業である日本HPは、グローバル・シチズンシップに基づく社会貢献活動、特に教育分野および社会的・経済的弱者に対する支援に重点を置き、日本でも好奇心旺盛な児童・生徒がより活発に学び、知識を活用できるようITの側面から支援を行っています。その中で2006年4月に開校した立命館小学校をピーチヘッド(地域の教育機関のリーダー)と位置づけ、子ども達に親和性の高いタブレットPC 33台や大型プリンタ、プロジェクタなどの周辺機器を寄贈。ITの活用を通して、子ども達の創造力育成に貢献するため、日本HP社内のボランティア組織「HP-Squeakers(HPスクイーカーズ)」と、共にスクイークの普及に取り組んでいます。

創造力豊かな子ども達のスクイーク授業を参観

立命館小学校では1~3学年まで368名の児童が在籍し、「力・原理」「電気・回路」「プログラミング・制御」「デザイン」「社会倫理」の5領域を合わせた独自の教育カリキュラム「ロボティクス」において、スクイークを取り入れています。この日は、3年生の2クラスが、それぞれ自分たちの作品を発表する授業でした。すでに、これまでの授業でスクイークで絵を描き、それらをモニター上で自在に動くようにプログラミングを完了させている児童もいれば、「ここをもっとこうしていきたい」と制作途中の作品について熱心に考察を話す児童もいました。

児童の作品はどれも創造力豊かなものばかりでした。人気のあったテーマは、「恐竜」「海のいきもの」「宇宙」「花」「ちょうちょ」など。しかし、同じものをテーマにしていてもPCのモニターに描かれたそれらはどれも個性があり、スクイークでの表現方法も様々でした。スクイークを開発したアラン・ケイ博士は「コンピュータは複雑だけれど、紙に絵を描く以上のすごいことができる。」と語っています。

例えば、「海のいきもの」をテーマにイルカの動きにあったプログラムを作ろうとした男児は、「まず最初に海とそこに棲むいきものたちを、紙に絵を描くようにスクイークで書きました」と発表。「それから、イルカが海上で生き生きとバク転するだけでなく、少し遠くにいるタコが墨を吐くようにプログラミングしました」と、作品の制作過程を話しました。紙なら平面上に描くだけに止まりますが、PCでは自由な創造力で、絵を動かすこともできます。海全体の様子をスクイークで表現しようとする男児の細かな観察力には驚かされました。

当日は、参観に来ていた保護者から児童達に「スクイークを使って、ここまで仕上げるのにどれくらいかかったの?」「これから、もっと工夫したいところはありますか?」などの質問も飛び出し、どの児童も「最初はPCとスクイークに慣れることが難しかった」ことに触れつつも、操作できるようになった今では、満足そうな表情で自分の制作したスクイーク作品について答えていました。

授業の終わりに、アラン・ケイ博士は「私のように年を重ねた科学者でも、まだまだ好奇心がいっぱいあります。だから、皆さんもいろいろなことに興味を持って欲しい。世界は目に見えているものが全てではないから、注意深く見て下さい。いつも疑問を持ち、その質問の答えを見つけることを楽しむことが大切です」と、児童達に声をかけました。

"スクイークの生みの親"アラン・ケイ博士から児童たちへのメッセージ

スクイークを使った授業参観の後に行われた講演会で、アラン・ケイ博士は児童たちに、自身がコンピュータを通じ、科学や数学に触れる楽しさを話しました。「皆さんの中には、私のように科学者としての仕事を楽しんでいることに驚かれた方もいるかもしれません。しかし、実際に科学や数学は、音楽や芸術と同様に楽しいものなのです。科学の大部分は"遊び"ですが、音楽を志す人が努力するように、我々も努力しなくてはなりません。音楽や芸術のゴールは、他者とコミュニケーションし会話していくことです。そのように捉えると、ややこしいと思われがちなコンピュータも、ある種のコミュニケーションツールになります。コンピュータを紙と考えてみてください。紙に絵を書くことができるなら、PCにも絵を描けるでしょう。そして、それらを動かしもできます。ストーリーも伝えていけます」と、科学が、音楽や芸術と同じであることを児童達に語りかけました。「コンピュータを使えば、世界がどのように動いているのかを知ることができます。私たちが使うテクノロジーが地球の温度・気温に与える影響もわかるのです。皆さんには、そんなふうに、コンピュータの隠れた部分を理解して欲しい。先ほど、授業の終わりに、世界は見えているものだけではないと言ったのはそういう意味です。皆さんは、恐れることなく好奇心を持って取り組んでください。それを手助けするのが我々、大人の役目です」と、語りました。

講演では、HPスーパーサイエンスキッズが日本各地で行なっているワークショップで制作された作品も立命館小学校の児童達たちに公開されました。他校の生徒たちの、そのアイディアのおもしろさや、創造力の豊かさに会場からは「すごーい!」という驚きの歓声が起こりました。

スクイークを通して、アラン・ケイ博士と交流した児童たちから、こんな質問が飛び出しました。「どうすれば博士になれるの?」 それに対し、アラン・ケイ博士は「世界をぐるっと見回しましょう。よく見ると、必ずあなたの興味の持てるものがありますよ。その好きな分野を突き詰めていくと、それに対して意見が持てるようになる。さらにそれを深く突き詰めていくと、私(博士)のようになれるでしょう」と、答えました。児童達が好奇心に目を輝かせながら聞き入る様子が、印象的でした。

アラン・ケイ博士記者懇談会

講演会終了後に行われた記者懇談会では、まず初めに立命館小学校の教頭でもありHPスーパーサイエンスキッズのアドバイザーでもある荒木貴之氏が「本校は、児童にとって教育的効果があるものであれば、最新のもの(コンピュータなどを取り入れた授業)、旧来のもの(そろばんなどの授業)にかかわらず導入し、"子どもが輝く"環境作りに取り組んでいます。児童の学びにとって、書いて覚えるという一連の流れは自然なことであり、その中でタブレットPCやスクイークを導入することはとても意義あることだと考えています」と、述べました。教育機関であり、研究機関でもありたいという指導方針にのっとり、HPの製品とスクイークが活用されています。

また、HPスーパーサイエンスキッズの実行委員長で、日本HP ガバメントパブリックアフェアーズ部長の瓜谷輝之は「立命館小学校が京都の他校のみならず、日本中のピーチヘッド(コンピュータを活用した教育のリーダー)として牽引していって欲しい」と期待を述べ、「人間だけが持つすばらしい能力や可能性をPCを使って支援できないかという思いで、スクイークに注目しています」と、プロジェクトの目指すところを示しました。

今回の授業参観について、アラン・ケイ博士は「保護者・子ども・HPのような企業が、ともにイベントを成し遂げたことが素晴らしい」と、感慨深く語りました。そして、「コンピュータの使い方のひとつに、普遍的な概念を再生することがあげられます。PCは動的なプログラミングができる紙であり、スクイークの例のように、絵を描き、色を塗り(ここまでは紙と同じ)、その先に動かすこともできます。ただ、実際にどのように子ども達がコンピュータを使い学ぶのかは、個々の個性に基づき判断が必要。そして、より難しい概念になればなるほど、大人の手助けが必要です。本来、科学や数学というものは教えにくいものですが、学ぶのが難しい概念を容易に学ぶシステムがスクイークなのです」と、スクイークが子ども達の学びを手助けする大人の手段であることについても言及しました。

「今回の立命館小学校におけるスクイーク授業参観が、よい事例として世界中に発信するモデルケースになって欲しい」と、述べたのは、HPスーパーサイエンスキッズの共催団体であり、アラン・ケイ博士が代表を務める米国NPO法人「Viewpoints Research Institute(ビューポインツ リサーチ インスティチューツ)」でエグゼクティブディレクターを勤め、この日、博士に同行していたキム・ローズさんです。HP・地域・コミュニティが一丸となって取り組むプロジェクトは、世界の他に例を見ないとし、スクイークの活用状況がオープンに情報発信されていることを喜ばれていました。

授業参観中に保護者の方から「私自身が子どもより先にスクイークを使ったことがあったため、子どもの作品にアドバイスすることもあります」と、いうお話しをお伺いしました。スクイークが親子の間のコミュニケーションの一部にもなっているようです。

一見、難しく思われがちなコンピュータの世界ですが、スクイークはオープンソースとしてネットを通じて無料配信されているため、誰もがスクイークを通してさらにコンピュータに親しむことが可能です。コンテストにはワークショップ参加の有無を問わず、条件を満たしていれば、世界中からエントリーすることができます。学ばされているのではなく、子ども達の自主性を尊重し、これからもより多くの子ども達が遊びながら、自分の創造力を膨らませ、試行錯誤しながら学べる環境作りとスクイークの素晴らしさを伝えていく。それがHPスーパーサイエンスキッズの使命です。