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国立天文台三鷹キャンパスで「アラン・ケイ博士と宇宙を見よう」イベントが開催
~日本が誇る天文学研究の最前線に子供たちが触れた1日~

またアラン・ケイ博士と会えるのを楽しみに

2006年3月23日、HPスーパーサイエンスキッズ(HPSSK)実行委員会は、国立天文台の協力のもと、東京の国立天文台三鷹キャンパスにおいて、「アラン・ケイ博士と宇宙を見よう」と題したイベントを開催しました。地元三鷹市の小学生と、HPSSKのワークショップなどでスクイークの学習経験を持つ小学生を中心に、合計60人ほどの子供たちが参加し、宇宙に思いを馳せる有意な1日となりました。

「アラン・ケイ博士と宇宙を見よう」イベントでは、当初はその趣旨通り、HPSSKの名誉委員長であるアラン・ケイ博士が来日し、日本の天文学研究の中枢である国立天文台において、子供たちとともに最先端の天文学に触れる貴重なひと時となる予定でした。しかし残念なことに、アラン・ケイ博士は突然の体調不良により、この度の来日を叶えることができませんでした。博士は、ご自身との再会を心待ちにしていた日本の子供たちに向け、次のようなメッセージを送っています。

参加者のみなさん、こんにちは!

私の病気のため、みなさんに会うため日本へ行くことができなくなって本当に残念です。

私が7歳か8歳のとき、なぜ飛行機とロケットが飛ぶことができるのか不思議に思いました。これが理科や算数に興味を持ち、電気や電子工学の世界に入るきっかけとなりました。これらの分野のすばらしいことのひとつは、それについて学べば学ぶほど、よりおもしろくなるということです。

もし、これらを学ぶなら、すべての原因と結果の背後には共通の論理があることが見えてくるでしょう。コンピュータは、そのような考え方をより深く理解するための助けになります。そして、その過程でコンピュータ自体の仕組みを考えることがとても重要で、世界をよりよくすることにつながるのです。

私たちがこれまでに取り組んだ中で、最も刺激的なプロジェクトが昨年はじまりました。それは、世界中、特に発展途上国の子供たちのための100ドルノートパソコンです。それは無線でインターネットにつながるので、ヨーロッパやアメリカ、日本のような恵まれた国の子供たちが、恵まれない何百万人もの子供たちと友達になって、共に学び、直接手助けできるようになります。みなさんもプロジェクトに参加して、世界中のすべての子どもたちを助ける方法を考えてみてください。

成功を祈ります。

アラン

文面から、イベントに参加できなかった残念な想いとともに、サイエンスを学ぶ重要性と、コンピュータが世界の子供たちに与えうるすばらしい可能性について、伝えたいことが山ほどあったことがうかがえます。

天文学者にとってコンピュータは切っても切り離せない関係

さて、博士は不在でも、子供たちが楽しみにしていたイベントはもちろん決行です。最初に、国立天文台情報センター長の福島登志夫教授より、開会の挨拶が述べられました。

この国立天文台三鷹キャンパスは、都心から近いにも関わらず、武蔵野の面影が残る緑に恵まれた環境に立地しています。今日は、この三鷹本部にあるいくつかの施設を見学していただきます。皆さんは『すばる望遠鏡』を知っていますか。国立天文台では、米国ハワイ州のハワイ島にある標高4200メートルのマウナケア山頂に、口径8.2メートルの巨大な望遠鏡を備えています。また、長野県の野辺山にある宇宙電波観測所、太陽電波観測所など、研究目的に応じて、国内外の各地に観測所を設けているのです。

また、これらの天文観測にはたくさんのコンピュータを利用します。すばるなど大型の望遠鏡は、もはや人間の手作業では扱えません。操作の際には、パソコンやワークステーションなどの力を借ります。私たち天文学者にとって、コンピュータは切っても切り離せない関係なのです。そのため、天文学者が一番恐れるのは、ネットワークがつながらなくなること。それはなぜかというと、最新の望遠鏡からのデータを、コンピュータ・ネットワークを使って遠く離れた場所でアクセスしているからです。また、研究によっては、地球を回る人口衛星や太陽系を旅する探査機と通信をしながら、観測データや研究のヒントを得ているのです。このように、コンピュータやネットワークのどちらが欠けても、現代のさまざまな研究は成り立たないということなのです。

福島教授

その後、子供たちはA、B、Cの3つの班に分かれ、順次予定された見学コースに沿って見学を開始しました。最初に訪れたのは展示室。ここでは、国立天文台が実施するプロジェクトの紹介や、観測・研究成果など、日本の天文学の最前線について知識を学べます。日本が誇る大型光学赤外線望遠鏡「すばる」をはじめ、長野県の野辺山にある宇宙電波観測所、さらには、ALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)という、直径12メートルのアンテナ68台と直径7メートルのアンテナ12台を組み合わせる巨大な電波望遠鏡を、米国やヨーロッパと協力して、チリのアンデス高地の標高5千メートルに、国立天文台が現在建設中のようすが詳しく紹介されました。

国立天文台が作った驚異の映像に子供たちの歓声が止まず

そして、各グループは「第1赤道儀室」を見学。1921年(大正10年)に建設され、2002年2月14日に国登録有形文化財に指定を受けたこの観測施設は、国立天文台三鷹キャンパス内では最古の建物となっています。レンズ直径が20センチの屈折赤道儀式望遠鏡では太陽の黒点のスケッチや太陽の撮影がおこなわれていました。

太陽を追尾する動力には、電気ではなく"重り"を利用した重錘式駆動方法が使われていた構造に、子供たちは一様に感心した様子でした。

次に向かったのは大赤道儀室(現在は天文台歴史館として利用)です。そこまでの順路には、太陽と各惑星の模型が14億分の1に縮尺され、間隔を空けて備えられている太陽系ウォーキングがあり、太陽系の各惑星の位置関係が体験できる小路になっています。

1926年(大正15年)に建設された大赤道儀室では、屈折式としては国内最大となる口径65センチのカール・ツァイス製望遠鏡が完全なまま鎮座しています。ここは以前、土星の衛星観測や星の位置調査などに使われていました。現在では、観測室の下の階を天文台の歴史に関する展示室となっており、子供たちは思い思いに日本の天体観測技術の歴史について学ぶことができました。

そしてお待ちかね、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト(4D2Uプロジェクト)が作成した"飛び出る映像"の鑑賞です。この4D2Uは、立体映像をさらに時間によってさまざまに変化させることができるシステム。1つひとつの星や銀河が形作る本物の宇宙の姿を、実際の研究に基づくデータを使い、スーパーコンピュータがシミュレーションで忠実に描き出しています。宇宙が生まれたころの映像や、月が誕生する過程など、見たこともない驚異の映像を立体映像で体験することができます。

立体メガネをかけた子供たちは、この驚異の映像に圧倒され続けました。地球を飛び立ち、宇宙を旅行する中で、46億年前の地球や月の誕生シーンでは、真っ赤に燃えた無数の岩石が体の周りに飛び交います。子供たちの大きな歓声が止まりません。

さらに太陽系から遠くに離れると、そこは恒星の世界。太陽も含め、2000億個以上の星が集まる銀河系の成り立ちも、リアルな映像で再現しています。この4D2Uでは、映像を時間的・位置的に変化させ、自在に操ることができるため、宇宙には1000億個もの銀河が存在し、一定の分布で宇宙空間に広がってはいないことが視覚的に理解できます。

子供たちの好奇心を刺激して質問が止まらない講演

さて、施設見学を終えた子供たちは会場にもどり、休憩の後、改めて福島教授の講演を聴講しました。「今日は短い話を2ついたしましょう」と語り始めた教授の最初の話題は『ブラックホール』。アインシュタインが編み出した相対性理論には、特殊相対性理論と、一般相対性理論があり、一般相対性理論を考えついた際に、友人に送ったとされる手紙を紹介。そこには、星のそばを通る光が屈折する「重力レンズ」の発見が図で語られています。「重力は物体だけではなく、光さえも曲げるということ。それを天文学者が日食の観測から証明したおかげで、アインシュタインの一般相対性理論は間違いのない理論として世に受け入れられたのです」(福島教授)

その後、宇宙のあちこちに重力レンズが発見され、その1例が、超新星爆発の中心にできるブラックホールやクエーサーだと語る教授は、全ての銀河の中心には大きなブラックホールが存在する可能性があると語ります。「一般にクエーサーと呼ばれているものは、非常に大きな銀河で、真ん中に巨大なブラックホールを抱えています。私たちはその巨大な噴流が巻き起こす、強烈な光を見ているのではないかと考えられているのです」

 そして、次の話題は『地球があぶない』です。水星を鮮明に写した画像を見たとき、天文学者たちは驚愕しました。隕石が落下したクレーターの跡が生々しく残っていたからです。地球上にかつて生息していた恐竜も、隕石の落下で絶滅したといわれ、メキシコ湾のユカタン半島には巨大隕石の落下跡が今も残っていると、福島教授は衛星写真を示します。

「太陽系には小惑星が多数存在し、中には衛星を従える巨大なものもあります。火星と木星の間には、確認されただけでも2万以上の小惑星が浮遊しています。その中から地球に接近する可能性のある小惑星が多数確認されているのです。また同じく彗星も危険です。突然、地球に接近してくる彗星が現れないとも限りません。それを現在、多くの研究者が監視を続け、見張りをする専用の望遠鏡もあるのです」

この講演の内容に刺激を受けたのか、子供たちからはたくさんの質問が投げかけられました。「ブラックホールに吸い込まれたらどこに行くのですか?」、「ブラックホールには寿命や消滅することはあるのですか?」、「ハレー彗星がぶつかったらどうなるのですか?」、「アインシュタインの相対性理論が良く分からなかったので教えてください」などなど。こんな活発な好奇心に、さすがの福島教授もたじたじのご様子でした。

あいにくの雲で星は見えず、それでも望遠鏡は迫力十分

日もすっかりと暮れた頃、社会教育用の公開望遠鏡を利用した観望会が実施されました。ところが、三鷹上空に雲がかかってしまったため、残念ながら星の観測は不可能となってしまいました。それでも希望した子供たちは、ホスト役を務める東京学芸大学在学中の塚田健さんの指導で、口径50センチの反射望遠鏡に触れながら、その構造や操作方法などの説明を受けることができました。

「この望遠鏡は全てパソコンで操作されています。土星を指示すると、その時間での土星の座標に従って自動的に計算して狙いをつけ、ドーム全体もそれに連動します。さらに、地球の自転に合わせて常に微修正を加えているんですよ」と説明する塚田さん。人間の目の瞳の直径はおよそ7ミリですが、この望遠鏡の内部の鏡は直径50センチもあるため、人間の目の6400倍もの感度で光を捉えます。視力にすると、20を超えるそうです。

「望遠鏡を管理する上で、最も気をつけることは、望遠鏡内部の湿度と温度を一定に保こと」と語る塚田さんは、メンテナンスのため、心臓部である鏡を数年に1度、取り外して洗浄しなければならないことを教えてくれました。

さすがはスーパーサイエンスキッズを目指す子供たち

今回子供たちの見学を引率していただいた、国立天文台の天文情報センター普及室に勤務する石川直美さんは、「国立天文台三鷹キャンパスでは、多くの小学校からの見学を受け付けていますが、今日の生徒さんたちは進んで写真を撮り、また細かくメモをするなど、まじめで学習意欲のある子供たちが多かったように見受けました」との感想を述べます。「見学コースでは元気にはしゃいだりしていた子も、講演会では真剣なまなざしで聞き入っていて、これほどたくさん質問が返されるのには大変驚きました。さすがは、スーパーサイエンスキッズを目指す子供たちですね。私も、とても楽しめました」(石川さん)

そして閉会にあたり、HPSSK実行委員長でHP-Squeakers代表の瓜谷輝之は次のように語ります。「今日、皆さんは、この国立天文台で多くのことを発見したり、感動したりできたことと思います。それを、これからのスクイークの作品作りにも生かしていただけると私たちも嬉しく思います。それから、本日お世話になりました国立天文台の福島教授ほか、サポートしていただいたスタッフの方々に対し、心からの感謝の拍手をもって本日のイベントを終了したいと思います。ありがとうございました」